誘惑

集中して仕事したいからって、ホテルにこもるなんて。
ベストセラー作家みたいねって笑った。

仕事の飲み会が終わったのは23時過ぎ。
2次会のお誘いをことわって、いつもと反対方向の電車に乗り込んだ。
地下鉄の駅を出ると、湿気を含んだ風がまとわりつく。

ホテルのロビーも、この時間は人気が少ない。
フロントを素通りして、エレベーターホールに向かった。
エレベータに乗り込んで14Fのボタンを押したのに・・・無反応!?
そういや、24時を過ぎるとカードキーがないと上がれないんだっけ。

電話すると、あわてて彼が迎えに来てくれた。

会うのは1週間ぶりくらいかな。

ここは都心のオアシスみたいな場所。
非日常空間。
明日は久々のDAY OFF...
いつも時間に追われているみたいで、落ち着かないけど。
今夜は、目覚ましをセットしないで眠れる。
そんな些細なことが、何より幸せ。


翌朝、彼がもう1泊しようかなって言う。

私が、明日は出張だって言うと、じゃあ一度帰って出張の用意してまた来ない?だって。

「俺が仕事している間、スパでマッサージでもしてて」

なんて言うから、簡単に誘惑に負けてしまう。

こんな時間がいつまでか続くのか。
先のことは分からないけど。

今は、いいか。
彼に甘えても。

深夜の電話

電話するよって言いながら、彼がようやくかけてきたのは23時を過ぎた頃。
確かに遅くまで仕事で抜けられないんだから、しょうがないけど。

こういうの、これで何度目か分からない。
さすがに、今日の私は、ちょっと不機嫌だったかもしれないな。

まぁ別に今日会えなくても、死ぬわけじゃないし。
どうってことない。
取るに足らないこと。
(そう、言い聞かせている。自分に。)

0時を過ぎて、今度は自宅からかけてきた。
要件は100%仕事のこと。
夜分遅く悪いね、だって。

30分ほど話込んだら、眠気が飛んでしまった。
明日は、出張なのに。
朝、きついかもなぁ。

振り回されるのは、こういう関係だからじゃなくて、ずっと前から。
毎度ムカつくけど、憎めないんだよな。
Give&Take、借りを返してくれるし。
そういうところは、義理がたい人。

多少無理しても、彼の力になれたらって思わされる。
考えてみたら、すごい才能だな。

金曜日の夜は、渋谷でお得意様の接待。
翌日も仕事なのにお開きになったのが11時近くでかなり疲れた。

駅でみんなと別れた後、彼と合流した。
だいたいいつもこんなふうに、どこかでピックアップしてくれる。
じゃあ、私たちはこれで・・・
なんて、一緒に消えるわけには行かないから。
いつのまにか、これがお約束のパターンになった。

彼の車に乗り込んでも、私たちは、この後どうするってお互いに切り出せない。
私の家の前まで来て、やっと彼が口を開いて私たちの「この後」が決まる。
これもパターン。
車を停めて、彼がちょっと寄っていい?って聞くと、ようやく私はほっとできるのだ。

彼が眠り込んでしまっても、少しくらい大丈夫だろうと思っていた。
それが彼の日常なんだろうって。

でも、明け方の電話で、今さらだけど、やっぱりそうじゃないってこと、思い知らされた。

彼が嘘をつくのを、隣で聞いているのは辛い。
ボディブローのようにじわじわ効いてくるかんじ。

 もう少し眠っていいよ。
 鍵、置いていくから。

 とうとう俺もこの部屋の鍵をゲットしたか〜

なんて、彼は冗談ぽく言ったけど。
私は、笑えなかった。

鍵を渡したら、また一線を越えてしまうような気がしていた。
だから、ずっと避けていたのに。
自分の中のどす黒い感情に支配された?
うん。たぶん、そうなんだろう。

その夜、私は彼の妻のことを思った。
電話は2度あったと思う。

少し前の私と同じ。
夫が帰宅しないのを、最初は心配して。
だんだん、おかしいって思うようになって。
もしも、嘘を見抜いたら?
そう思うと、苦しくて動悸がした。

夫と彼は違う。
彼にとっては、比べるまでもなく、やはり妻こそ大切な存在なんだから。
そのことが、私を安心させているというのもまた事実。

2つの顔

陽一郎さんと私には、プライベートな関係しかなかった。
会うときは、いつもふたりきり。
誰にも知られることがなくて、2つの顔を使い分けることもない。
いわゆる日陰の身だけど、それはそれで楽だったような気がする。

今の彼と私は、そういうわけにもいかなくて。
色々とオフィシャルな場にも、揃って出ないといけなかったりする。
会いたくない人にも、会わなきゃいけない。
どうしても、避けられないこともある。
そう、彼の奥さんとも。

実は、かなり唐突に、そんな事態になってしまった。

もともと、妻とは上手くいってないんだよ、なんて言わない人。
私の目の前にいるのは、評判通りの素敵なご夫婦。

こういうの目の当たりにすると、一般的にはどうなんだろう。
なんて、ちょっと思ったりした。

私は、かなり心拍数が上がっていたような気がする。
短く自己紹介して、「いつもお世話になっています」なんて言って・・・。
それから、どうなったんだろう。

私は、驚いたことに、その場面の記憶を封じ込めたみたいだ。
彼の奥さんの顔も、今はぼんやりとしか思い出せない。

私、不自然じゃなかったかな。
こういうことがあると、もう止めようかって思ったりするのかな。
そんなことを思いながら、帰り道、肩を落として歩いていたら・・・
久しぶりに陽一郎さんからメールが届いた。

いつも思うのが、このタイミングの良さってなんなんだろうってこと。

ちょうど、来週は、彼の住む町に出張の予定。
食事にでも誘ってみようかな。
自分を試してみたいような衝動にかられたけれど。
結局、決められなかった。

陽一郎さんに会って、何がしたいのかよく分からないし。
おそらく、負荷分散みたいなものかな。

大人の恋愛

彼を送り出したのは午前4時ちょっと前。

 泊まってく?
 いや、やっぱり帰らないとだよね。
 帰って。

私、ひとりでしゃべってた。

彼は、泊まりたいけど、そうだな・・・帰るよっていうだけ。
だらだらしないから、そういうところはいいかなと思う。

ふつうなら、こんな時間に帰ったりすると、どうしたの?ってことになるんだろうけど。
彼の場合は、これがずっともう何年もの間、日常になっているからノープロブレム。
電車を使わない人だから、終電なんて概念もないし。

いわゆるプロフェッショナルなお方ともデートしたり。
私には、忙しいから今週は時間ない、なんていいながら、そういう時間はちゃんとあるんだって。
ちょっとムクれた。
彼って、そういうことを素直に言う人。
だから、結局、許してしまった。

私とのことも、お遊びの範疇なんだから別にいいかって・・・

大人の恋愛だって彼は言う。

 だから、奈緒が他の男とデートしたって気にしないよ。

 それって、私にこう言ってるの?
 俺が他の女とデートしても気にするなって・・・
 お互いの領域に踏み込まないのが、大人の恋愛ってやつなの?

そうじゃないよって。
他に付き合っている女なんかいないよって。

あわてて否定したりして、おもしろい人。
猫みたいでかわいい。

私も、実はそう思っている。
彼が、他の誰かと付き合っていても、そんなに気にならないんじゃないかな。

とても好きだからこそ、そう思わないと持ちこたえられないのかも。

 私、人生ってうまくできていて、必要なときに必要な人とちゃんと出会えるって思うんだ。
 
 じゃあ、俺も、今、奈緒にとって必要な人なの?
 そうかな。俺は何もしてあげられないのに。

何もしてくれなくていい。
私は、自分が好きになれる男が必要だったから。(陽一郎さんの代わりに)
その役目を果たしてくれれば、それだけでいい。

さすがに、そんなこと言えないか。

私の部屋に来て、彼はずっと国際電話中。
アメリカとの契約が大詰めだってことで、真夜中まで仕事している。

私は、彼の隣で、電話会議の成り行きを見守っている。
彼の声、実はとても好き。
最初に惹かれたのは、たぶんそこ。
優しくて、力強い。

彼の声を聞くと、なんだか安心させられる。

話がまとまったみたい。

恋愛中毒

どんな選択をしても、リスクはあるわけで。
私が選んだ道も、そう特別なわけじゃない。

なのに、今日はどういうわけか情緒不安定。
泣いたら楽になるかと思ったりして、ちょっと涙腺をゆるめてみた。
ぽろぽろっていうよりも、じわっとくるかんじ。

そろそろ本気でやばいなって思うほど、恋愛中毒な私。
仕事が手につかなくなってきた。

リスクのある関係を続けながらも、実際のところ、心は安定したがってるのかも。

素直になれないのが疲れるんだろうか。
言いたいことも言えない状況。
それだって自分で選んでやってるのに。

しんどいなら止めてしまえばいいのかな。
全部、リセットすることもできる。
今なら、きっとまだ間に合うかもしれない。

なんて、思っても・・・結局そうしないのはどうして?

恋愛中毒は、そう簡単に思考回路が切り替えられないから。
他の選択肢を想像しようともしない。
終わりのシーンをイメージできない。

幸せな恋愛関係って、なんだろう。
自分が想う以上に、相手からも想われること。
もしくは、想われてるって信じられること。
それが基本。
私の場合、自分の方が想い過ぎているって気づくと、急に不安になるみたい。

会えないのは、仕事が忙しいだけ。
もしも時間が空いたら、きっと電話をくれる。

疑う理由なんてないのに。
そう信じられたらいいのに。

一刻も早く眠りたくて、久しぶりに睡眠薬を飲んだ。

陽一郎さんから電話がかかってくる前に・・・
呼び出し音も聞こえないくらい、深く眠りたい。

自分のものにしたい

私は、彼を自分のものにしたいのかなぁって・・・
そういうときも確かにあるけど、本当にそうなのかって聞かれたら微妙。

基本的にひとりが好きでわがままだから。
自分が人恋しいとき、必要としているときだけでいいのかもしれない。

まぁ、そうは言っても、忙しい彼のこと、それってかなり難しい望みだけど。
部署が変わってから、1週間以上会えないことも多い。

私は、彼の部下じゃなくなったのだ。
それでも、公私混同しないでいられるのが、自分でもちょっと不思議。

近くなり過ぎないように、たぶん無意識のうちに感情をコントロールしている。

会いたいって言うのは、簡単だけど難しい。

旅の終わり

3日間ずっと一緒だったから、旅の終わりが近付くと、無意識のうちに寂しさがつのる。
気にしないようにしても、孤独なのは絶対。

 長旅も終わりだな。

しんみりとつぶやく彼の横顔を覗き込んだら、なんだかせつなくなってしまった。

彼には帰るところがあって、それは変えられない事実。
私が彼を独占できる時間は、そう長くない。
それでも、私は納得している。
いや、納得しようとしている・・・だけかな。

変えられない事実を目の当たりにすると、やっぱりダメージを受けるみたい。

典型的な症状。
自分で自分が情けなくなる。

彼の目に、私はどう映るんだろう。

完全に自立した女で、ひとりでも楽しそう?

彼がそう思うように、私は私を演じているような気がする。

素の自分でいられる相手とは楽ちんだけど、つまらない。
完全にイカレテル。

大人のおもちゃ?

私と彼ともうひとり。
この3人は、ずっと前からチームだ。

彼が部署を移ってからも、週に一度は3人で集まってミーティングしている。
このミーティングは、会社的には非公式なもの。
だから、場所も、その時々で特に決まっていない。

3人でスケジュールを共有しようってことで、Googleカレンダーを使いはじめた。
これ、けっこう軽くて、会社で使っているグループウェアなんかよりずっと快適。

でも、やっぱり紙の手帳みたいにいつでも参照できるわけじゃない。
かといって、携帯だと画面も小さいし・・・。

何かいい方法は・・・と調べていたら、Iphoneがけっこう使えることに気づいて、ほとんど衝動買いで契約しちゃった。

auの携帯から乗り換えるのは、難しいのでとりあえず新規で。
会社のエンジニアさんがひとりIphoneユーザーで、彼も最初は乗り換えたんだけど、あとからauを復活させて、2台持ち。
私も、今の会社に入る前までは、会社支給のdocomoと長いこと2台持ちだったから、携帯2台もありかと。

でも、この端末は携帯電話というよりも、むしろ小さいPCだ。
いつでもネットにつながるし。
アプリケーション次第で、いろいろな用途に使える。
私にとっては、新しいおもちゃみたいなもの。

とりあえず、メールとスケジュール管理からはじめよう。

彼にも勧めてみたら・・・
さっそくdocomoから乗り換えるっていう(笑)

 じゃあタダ友だね。

なんて言ってたけど、彼は留守番電話も使いこなせない人だった。
らくらくフォンの方がいいんじゃないのかなぁ。